途方に暮れながら散歩を続けて、岩場の海岸までやって来た。
ここは昨日見つけた場所で、観光客がいる白い砂浜と違って足場が悪い。
だからといって、地元の人がいる訳でもない。
この島は、そういう場所ばかりだ。
空が広いだけの何もない場所よりは、岩に囲まれていた方が落ち着くから、ここに来てみたけど。
瑠 亜:「相変わらず、誰もいないわね」
都会の喧噪に慣れていた分、世界に私一人しか存在していない気分になる。
瑠 亜:「今日はあっちにも行ってみようかな」
岩場を伝って行き、平べったい岩の上に立つ。
目の前には、透明度の高い碧い海が広がっていた。
更にその先に見える水平線の向こう側は。
瑠 亜:「大都会、かぁ……」
私が好きなものが全てある場所。
だけど、事情があって居づらくなった場所。
こっちに来て、まだ一週間。
懐かしさのようなものはまだないけれど、未練ならたっぷりある。
でも、3月まで通っていた学園の分校に転入することを決めたのは私だし、
早く未練を断ち切らないとね。
瑠 亜:「まあ、断ち切れたとしても、退屈なのは変わらなさそうなんだけどさ」
だって、何度も言うようだけど、星見ヶ島って、ほんっと何もないんだもの。
その逆なんて、この海と、お節介な島民と、
島の人が履いてる変なビーチサンダルくらいなものよ。
ナントカって名前の付いてる、合成ゴムで出来たダサいサンダル。
私、ビーチで足が濡れても、あんなの絶対に履かないんだから。
瑠 亜:「あとこの島にしかないものといえば、そうね……」
空を見上げる。
今は何もない、どこまでも青い空。
だけど、夜になれば……
瑠 亜:「満天の星空が見えるんだよね」
瑠 亜:「初めての島に来た夜なんて、良くわかんないけど
感動して泣いちゃったくらいだし」
前に3Dのプラネタリウムで宇宙空間を旅するプログラムを見たけど、
あれは今にして思えばアトラクションだった。
本物の星空って、これなんだって、初めて知ったの。
圧倒的な景色の前に、私は声も出なくて。
宝石をちりばめたような星空を見て、世界ってこんなに美しかったんだって思ったの。
恥ずかしいよね、世界が美しい、なんて思っちゃうの。
誰かにこんなの言ったら、絶対笑われちゃう。
私だって、この島で星空を見なかったら、きっと笑ってた。
でもさ、思っちゃったんだもん。綺麗だって。
泣いちゃったんだもん。ボロ泣きだったんだもん。あまりに美しくて。
瑠 亜:「海に囲まれた監獄みたいな島のクセに、私を泣かせるなんて、
やるじゃんさーーーっ!」
空に向かって、大声で叫んだ。
どうせ誰も聞いていない。
ここは、声なんて誰にも届かない場所だから。
瑠 亜:「きゃっ?」
不意に、足が滑った。
体勢を戻そうとするも、慌ててしまって尻もちをつく。
瑠 亜:「イタっ、きゃああああああっ!?」
私の体は、そのままバウンドをするように、下の岩に落ちていく。
ばちゃん!
私の体は、結構派手な音を立てて、海に落ちた。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺、笹井信司は、この春から社会人2年目で、役場勤めの公務員だ。
今は毎月恒例になっている老人会イベントの司会が終わって、
のんびりと役場に戻る途中。
司会といっても単なる進行係で、前座のような漫談も、鋭い突っ込みも必要ない。
約20名しかいない役場は雑務も多くて、こういう仕事も回ってくるのだ。
けど俺は島育ちだし、お年寄りや子供の話し相手が苦ではないから、
こういうのも楽しかったりする。
俺でも役に立てることがあると思うと、嬉しいものだな。
信 司:「今日は役場に戻ったら、島の広報誌の記事を書いて、それから……」
???:『きゃああああああっ!?』
信 司:「な、なんだっ?」
突然聞こえた悲鳴に辺りを見回すが、誰もいない。
海岸の方から聞こえた気がするが。
この辺りは岩場なのに、誰かいるのか?
信 司:「おい、大丈夫かっ!?」
急いで駆けつけると、制服姿の女の子が海に落ちていた。
瑠 亜:『ああもう濡れちゃったぁ』
信 司:「怪我はないかっ?」
もう一度声を掛けると、女の子は俺に気が付いた。
瑠 亜:「……えっ?」
こっちを見て目を丸くさせている。
信 司:「この岩場から落ちたのかっ?」
瑠 亜:「え、誰。ていうか、何?」
信 司:「いや、ええと……」
浅瀬とはいえ、海に落ちてるけど、大丈夫なのか?
信 司:「さっきの悲鳴、キミの声だよな?」
瑠 亜:「悲鳴……」
瑠 亜:「私の声が、聞こえたの?」
信 司:「たまたま通りかかったんだ」
瑠 亜:「そ、それ以外はっ?」
信 司:「それ以外? 悲鳴以外か?」
瑠 亜:「ええ、そうだけど……」
信 司:「いや、聞こえなかったが」
瑠 亜:「そ、そう。それならいいのよ」
女の子は何故か安心していた。
瑠 亜:「そっか、私の声、誰かに届くこともあるんだ。少なくとも、この人には……」
信 司:「なんのことだ。今はそれよりキミの状況だろ。怪我はないか?」
瑠 亜:「それよりって何よ……って、怪我? 別にそれは……お尻を打ったくらいだし」
信 司:「お尻?」
瑠 亜:「な、なんでもない」
信 司:「立ち上がれるか? 海開きはしてるが、浸かったままじゃ体が冷えるぞ」
瑠 亜:「うん……」
手を伸ばすと、怪訝な顔をされた。
瑠 亜:「一人で立てるし」
挙げ句、拒否された。
さっきまでお年寄りと接していたから、距離感を間違えたのかもしれない。
老人会には足腰が弱い人が多いから、
困っている人を見ると文字通り手を貸してしまうのだ。
年頃の女の子に触れていいのは、きっとアイドルの握手会くらいなのだろうな。
瑠 亜:「あれ? 私……」
瑠 亜:「きゃああ、下着見えてる!」
信 司:「下着? ……わっ」
言われなければ気付かなかった。
海に落ちたときに、スカートが捲れ上がったんだな。
この辺の海岸は透明度が高いから、パンツの色も良く判る………
………ほう、ピンクか。
瑠 亜:「あっち行ってよ、スケベ!」
信 司:「俺がっ?」
いや、ちらっと見てしまったから、そうかもしれないが。
けど今のは、俺が見ているからじゃなくて、
下着が見えている状態だったから言われた気がする。
もしそうなら、その謂われは理不尽だ。
古今東西、この手のものは男が理不尽な扱いをされるものだが、
そういうことをしていいのは美少女だけだからなっ。
……この子は美少女だから、許さざるを得ないのだが。
信 司:「それよりお尻は平気か?」
瑠 亜:「ちょっと打ったくらいだから平気よ! いいから早くどっか行って!」
信 司:「お尻を軽視するな。打ち所が悪ければ、痣になるかもしれないんだぞ」
瑠 亜:「お尻お尻って言わないで! もう痛くないんだからいいのよっ」
信 司:「せめて診療所まで案内しようか。キミ、この春に島へ来たばかりだろ?」
瑠 亜:「なんでそんなこと知ってるのよ! いいわよ平気なんだから。このお節介男っ。
さてはアナタ、島の人間ねっ?」
信 司:「お節介をするのが島の人間かどうかっていう基準にはならないと思うが」
瑠 亜:「じゃあ、違うってワケ?」
信 司:「いや、星見ヶ島生まれの、星見ヶ島育ちだ」
瑠 亜:「バリッバリ島の人間じゃないっ!」
<つづく>
信 司:「ふうう……」
さすがにイベント前は忙しい。
これから日を追う事に仕事が増えて、グループのことばかり考えるわけにはいかなくなっていくだろう。
俺がいない間、みんなをまとめるリーダーを立てる必要があるかもしれない。
再び屋上へ戻っていくと、何かの影が見えると同時に誰かとぶつかった。
信 司:「わっ」
啓 子:「きゃっ!」
和久井さんっ?
ぶつかった拍子に倒れ込み、咄嗟に手を突く。
だが俺は、その場所を間違えた。
啓 子:「んっ、笹井先輩……?」
信 司:「ゴ、ゴメン、和久井さん」
啓 子:「えっ?」
啓 子:「あっ…………」
俺の手のひらの中の、柔らかな感触。
服の上からでも、その大きさが容易にわかる。
啓 子:「はわ……はわわわわっ」
信 司:「ゴメン、決して悪気があったわけではないんだ」
啓 子:「わわわわわっ」
見たこともないくらい慌てる和久井さん。
啓 子:「わわわわわわっ!」
信 司:「ゴゴゴゴゴメン!」
まさかこんな場所で、漫画のようなラッキーイベントが起こるなど予想もしていなかった。
広 美:「しーんーじぃぃ? 何をやっているのかしらぁ?」
沙 夜:「闇に落ちるがいいです」
いや、アンラッキーイベントだったかもしれない。
……違うか。ここで女の子達にボコられるまでが様式美だな。
柚子葉:「どんな理由があろうとも、許せないこともあります」
瑠 亜:「制裁は受けてもらわなきゃね、笹井さん」
ですよねー。
美智留:「しんじ、まずはけいちゃんの胸から手、退かそっか?」
信 司:「……ハイ」
正座で和久井さんに謝り、なんとか許してもらった。
この程度の罰で済んだのは、偏に和久井さんの恩赦があってこそ。
心の中で感謝しつつ、みんなに集まってもらう。
信 司:「ええと……」
若干白い目を向けられつつ、リーダーの話をする。
信 司:「こ、ここからは真面目な話なんだが……」
信 司:「ゴールデンウィークのイベント準備で忙しくなってきて、俺が毎日様子を見るのは難しくなるかもしれない」
美智留:「ええっ、そーなの!?」
信 司:「当日のデビューライブは、キミ達のことを最優先にするつもりだけどな」
信 司:「マネージャーなのに悪いとは思ってる。けど役場はこの時期、人手が足りないんだ」
瑠 亜:「それはしょうがないわよ。専門でこの仕事をしているわけじゃないんだし」
信 司:「ああ……そこで、このグループのリーダーを決めようと思うんだ」
瑠 亜:「それはいい案ね。この中で適任となると……」
瑠 亜:「プロの現場を知るこの私かしら♪」
信 司:「いや、俺はヒロッチが適任だと思う」
瑠 亜:「ちょっと! 私がいれば百人力じゃなかったのっ!?」
信 司:「百人力がリーダーに適任というのは違うだろ」
瑠 亜:「同じことよ、同じことっ」
広 美:「信司、橋本先輩がリーダーに相応しいかはともかく、私より適任な人は他にいると思うわよ」
信 司:「だがヒロッチは、このグループの目標を一番よく理解しているだろ」
広 美:「そこは否定しないけど、私はまだ1年生だし、歌も踊りも下手なのよ」
広 美:「そんな私がリーダーをやるなんて、おかしいわ」
ヒロッチはあまり乗り気ではないのか。
信 司:「それならヒロッチは誰が向いてると思うんだ?」
広 美:「年上でみんなに信頼されている啓子先輩が適任じゃないかしら」
瑠 亜:「どうしてそこで私の名前を挙げないのっ」
広 美:「橋本先輩のことは頼りにしていますが、リーダーは一番年上の3年生がいいと思うんです」
瑠 亜:「学年なんてカンケーないわよぅ」
信 司:「和久井さんは、どう思う?」
啓 子:「私は自分がリーダーに向いているとは思えません」
美智留:「そっかな? おねーさんっぽいから、向いてると思うけど」
啓 子:「私は広美ちゃんに付き合ってこの活動を始めたし……」
啓 子:「それに、みんなと仲良く、そして楽しく出来ればいいと思っているから」
美智留:「それじゃダメなの?」
啓 子:「このグループはただみんなと楽しく活動することが目的じゃないでしょう?」
啓 子:「8月末に行われる御神木祭で、たくさんの観光客を呼ぶために結成されたのよね?」
美智留:「あー……そっか」
啓 子:「私達のリーダーに必要なのは、目標を達成させるための、強い情熱じゃないかしら」
啓 子:「それを持っている子がみんなを引っ張っていくのが、一番いいと思うの」
啓 子:「私達の中でそれがあるのは、広美ちゃんよね」
広 美:「でも、啓子先輩、私……」
啓 子:「広美ちゃんは島のリゾート化にも、神域に建物を建てるのも断固反対なんでしょう?」
広 美:「もちろん、その思いは誰にも負けません。でも私は言い出しっぺなのに歌も踊りも下手ですし……」
啓 子:「それは重要ではないんじゃないかしら」
広 美:「そんなことありません。重要なことです」
啓 子:「でも広美ちゃんは、練習を積んで上手くなってきたじゃない」
啓 子:「これまで放課後に頑張ってきたみんなは、広美ちゃんが人一倍努力していることを知ってるわよ」
啓 子:「情熱がなければ、あんなに努力できないわ」
沙 夜:「それは言えてますね」
美智留:「まあ……最初よりは、すっごく上手くなったと思うよ。努力してるのは認める……」
柚子葉:「授業の休み時間に、花咲さんがリズムを取って練習してるの、見たことある」
広 美:「み、見られてたの? 人目に付かないところでやっていたのに」
柚子葉:「この校舎狭いから、誰にも見つからずに練習するのは、難しいと思う」
広 美:「う……恥ずかしい」
みんな見ていないようでしっかり見ている。
ヒロッチもみんなに言われて、戸惑っていた。
沙 夜:「広美ちゃんを見ていると、頑張ろうという気になるのは、たしかね」
啓 子:「ええ。だからリーダーには広美ちゃんが相応しいと思うわ」
美智留:「ん……同意」
瑠 亜:「まあ、そういうことなら、ヒロッチがリーダーってのもアリね」
美智留:「踊りは下手だけど、熱意は凄いもんね、ヒロッチ」
広 美:「みんな……」
<つづく>
マリア:「らー、らー♪」
マリアは小枝を拾うと自分で拍子を踏んで、踊り出す。
その踊りに、俺はすぐに吸い込まれた。
その雰囲気に圧倒されたと言ってもいい。
俺が知るアイドルのダンスからは離れたところにあり、どこか懐かしくも感じられるものだった。
神楽と似ているような気もしたが、根っこに近い部分が違う気もする。
おかしな事をいうと思われるかもしれないが、その踊りは森と合っていて、自然と一体になっているように見えた。
横にいたヒロッチも、マリアの踊りを食い入るように見つめている。
広 美:「信じられないわ……」
信 司:「何がだ?」
広 美:「何がって、これ、島の伝統的な踊りじゃない」
信 司:「そうなのか?」
広 美:「子供の頃に体育の授業で習わなかった?」
信 司:「そうだったかな」
俺には踊った記憶がないが。
広 美:「体育祭では何年生かが伝統的にこれ踊った気がするけれど」
信 司:「体育祭……ああ、思い出した。それ、踊ったのは女子だけじゃないか?」
広 美:「? あ、そうね。言われてみれば……」
祭り囃子のような音楽に合わせて、女子が踊っていた記憶がある。
懐かしいと感じたのは、そのせいか。
広 美:「どうしてマリアさんがこれを……」
ヒロッチは信じられないような目で見ている。
俺の方は、聞こえないはずの囃子が耳に届き、全国の……全世界に発信したい島のイメージが湧いてきていた。
自分の中から湧き上がるこの気持ちをまとめたら、なないろクリップのオリジナル曲にならないだろうか。
そういえば、アイドル愛好家の仲間に、同人活動を中心に作曲活動をしている人がいたな。
商業の仕事も何度か請け負ったことがあったはずだ。
イメージを文章に書くことが出来たら、彼にその作曲を頼めないだろうか。
マリア:「ふう……」
踊り終えて、額に浮かぶ汗をぬぐう。
興奮したみんながマリアを囲んだ。
啓 子:「マリアちゃん、素晴らしかったわ」
沙 夜:「感動しました。踊りを見て、こんな気持ちになるなんて初めてです」
柚子葉:「ワタシも。まだ胸がドキドキしています……」
瑠 亜:「ねぇねぇ、なんていう踊りなのっ?」
マリア:「島の伝統的な踊りじゃ。広美や美智留も知っておる。恐らく信司もな」
美智留:「うん、わたしも踊れるよ! でも、習ったのとはちょっと違うような」
マリア:「元は同じじゃ。美智留は簡略化したものを知っているのではないか?」
美智留:「そうかも。みんな踊れていたし、そういう風に変えたのかもね」
俺はみんなのようにマリアに駆け寄ることが出来なかった。
痺れるような余韻に浸っていたからだ。
じわじわと、大きな感情が湧いてくる。
この気持ちを言葉にするなら……
<つづく>
蒸し暑い部屋にヒロッチと帰ってきた。
信 司:「飲み物とってくる。ちょっとしか時間取れないんだろ?」
広 美:「ばか」
ヒロッチが真っ赤な顔をして、俺にしがみついてくる。
広 美:「そんなの、ウソに決まっているじゃない。信司と、こうしたかっただけなんだから」
信 司:「お、おう……」
汗で湿ったシャツにしがみついて離れないヒロッチ。
俺も細い腰に腕を回すと、ヒロッチはぴくりと反応した。
耳まで真っ赤にするヒロッチが、俺の胸に顔を埋める。
広 美:「すぅ……」
広 美:「これが信司の匂い」
俺がやろうと思っていたのに、先を越されてしまった。
広 美:「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
広 美:「汗っぽくて、蒸れた匂いがする……とろけそう……」
上を向いたヒロッチは恍惚とした、エロい顔をしていた。
俺も負けじと髪の匂いを嗅ぐ。
信 司:「これがヒロッチの頭皮の匂いか」
広 美:「ちょっと! どこの匂いを嗅いでるのよ。そんな恥ずかしいところは、嗅がなくていいってば」
とても理不尽だ。
信 司:「じゃあ……」
背をかがめて首筋の匂いを嗅いでみる。すんすん。
広 美:「きゃあっ!?」
信 司:「清涼感のあるデオドラントの香りがする」
広 美:「い、息っ。信司の息がかかるっ」
俺に匂いを嗅がせまいと強く抱きしめてくるヒロッチ。
身動きが取れなくなった俺は、きつく縛られるような格好になってしまった。
5分が過ぎ、10分が過ぎ……
広 美:「ふううう~♪」
ヒロッチが満ち足りた顔で離れる。
広 美:「信司を堪能したわ。こんなの二人きりにならないとできないものね」
信 司:「ああ」
広 美:「じゃあ今日は帰るから」
待って。
信 司:「一人で満足しないでくれ!このままでは俺が生殺しだ!」
広 美:「な、生殺しって」
せめて、もうちょっと先に進みたい。
隆人の問題を片づけて、神主さんに仲を認めてもらったんだから。
そう思ってヒロッチにキスしようと顔を近づける。
ぴっきーん! と体を硬直させるヒロッチ。
広 美:「な、何をする、つもり、なの」
片言に喋るヒロッチはロボットのようだ。
信 司:「何って……」
広 美:「これ以上のことなんて、まだ、早いわよ。それに、恥ずか、しい、し」
信 司:「じゃあ、いつならいいんだ?」
広 美:「それは……その…………わ、わからないけど」
恥ずかしそうにそっぽを向かれる。
信 司:「昨日は、機会があれば、って話をしたと思うんだが」
広 美:「え、ええ……そうなんだけど、わ、私まだ学生だし、したことないから、良くわからなくて」
広 美:「抱きついただけで、もうとろけそうだったのに、それ以上なんて、おかしくなっちゃうかな、って」
信 司:「だったら、俺とおかしくなってみよう」
広 美:「えっ」
広 美:「んっ……ん、んぅ……」
信じられないくらい柔らかな唇だった。
広 美:「信司……ちゅっ、ちゅ……ちゅ」
広 美:「信司とキスしてる……」
唇を指でなぞりながら、何度もキスをする。
広 美:「ん、ん……キスで、おかしくなりそう……んぅ……ンっ」
薄目を開けると、恥ずかしそうなヒロッチが見えた。
広 美:「はぁ、んぅ……ちゅ……信司……」
帰ろうとしていたヒロッチだけど、その体は完全に俺に預ける格好になっている。
広 美:「体に力が入らなくなりそうで、恥ずかしい……」
口を開いたその隙間に、人差し指を挿れる。
広 美:「ん、あ……れろ……信司の指、しょっぱい」
信 司:「ヒロッチのベロ、柔らかくて好きだ」
広 美:「うう……ん、んぅ……ちゅ……れろ、れろ」
唾液を含んだ舌を指で軽く引き出して、感触を味わう。
広 美:「はずか、ひい……信、ひ……あふ、ぁ……れろ、れぅ~、んぅん……」
ヒロッチの体が、とても熱い。
俺は再びついばむようにキスをしたり、舌を絡めてみたりする。
広 美:「んっん……れろ、ぴちゅ……ちゅる……」
唾液の付いた舌はヌルヌルしていて気持ちよく、何度も舌を上下に動かした。
広 美:「はぁ、はぁ……んちゅる、れろ……ぴちゅ、ちゅ……ちゅるる、んっんぅ……信司……ぁむ、ちゅる……れるぅぅ」
舌先を絡め合うと、粘液の音がした。
広 美:「ん……はぁ、ン……くちゅくちゅいってる……んぅ、ちゅ……ちゅ……レロ」
舌の裏側をなぞると、息が漏れる。
広 美:「んはぁ、んちゅ……んっ、んはぁ、はずか、ひ……ちゅる、んぅぅ」
はぁはぁ、と発情したように呼吸をするヒロッチに興奮して、胸に手を伸ばした。
広 美:「あん……ン……」
僅かに非難めいた顔をする。
広 美:「信司ぃ……あ、はぁ……あ、あ」
服の上から膨らみに触れるが、その下にブラジャーを身についているにもかかわらず、柔らかさを感じた。
信 司:「胸も柔らかいな」
広 美:「本当に……しちゃうの?」
この先に進むことの不安と興味が混じった顔で言われた。
信 司:「しちゃおう」
広 美:「信司、私、初めてだから」
信 司:「お、おう」
広 美:「すごい、ドキドキ、しちゃうから」
俺もですよ。
広 美:「ワケがわからなくなって、恥ずかしいことを、口にしてしまうかもしれないから」
むしろ大歓迎ですが。
信 司:「そのときは、その恥ずかしいことを忘れる努力をしよう」
広 美:「本当に? 約束よ?」
信 司:「おう」
広 美:「じゃあ……」
信 司:「しちゃう、ぞ?」
広 美:「ええ」
服を脱がせて、下着にする。
広 美:「……」
昨日の水着とは全然違う印象だ。
アイドルの水着は、ありがとうございます、と拝むものだが、ヒロッチの下着となると欲情しかしない。
肌に指が触れつつ、胸を愛撫する。
広 美:「ん……はぁ……」
広 美:「服を脱ぐと、汗臭い、かも……」
信 司:「俺は気にしないが……ヒロッチは俺が汗臭かったら気になるか?」
広 美:「信司のなら、気にならない、かも……」
信 司:「シャワー浴びてない俺のを咥えられる?」
広 美:「な、何言うのよ。そんなの…………恥ずかしくて言えないわよ」
信 司:「恥ずかしがるヒロッチ、スゴく可愛いな」
広 美:「うう……」
信 司:「我慢出来ない」
広 美:「う……」
<つづく>
今日はレッスンも無いので、仕事が終わったら真っ直ぐ家に戻って来た訳だが。
信 司:「……ヤバイ、ミッチが来るってのに、まだ答えが出ない!」
迷いに迷ったあげく、占いにまで手を出したってのに。
これだ! という答えが見つからなかったのだ。
信 司:「うわぁぁぁっ、タイムリミットかっ!」
時間終了を知らせる玄関のチャイムが鳴った。
恐る恐るドアを開けると、期待に満ちた表情のミッチが入って来る。
美智留:「えへへ、昨日の答えを聞きに来たよっ! しんじは、わたしの事、どう思ってるの?」
部屋に入るなり、目を輝かせながら膝を進めてくるミッチ。
信 司:「え、えっと……」
ううっ、答えも出てないのに答えられるかっ!
美智留:「ふーん、でもしんじはNOの時って、割とハッキリ言うよね。つまり、YESって言うかどうか迷ってるって事?」
信 司:「……そんな感じだ」
さすが幼なじみ。見抜かれていたか。
美智留:「そっかそっか。じゃあわたしがしんじの迷いを解決してあげる!」
ミッチはにぱっと笑うと、俺に飛びついてくる。
信 司:「うわっ!? な、なんだよ、ミッ……むぐっ!?」
美智留:「ちゅっ、しんじ、大好き……ちゅっ」
ミッチの唇が、俺の唇を塞ぐ。
ああっ、なんて柔らかくて甘い……いやいや、そうじゃなくて!
信 司:「お、おいっ、ちょっ、何をする気だミッチっ!?」
美智留:「んー、後押しアタック? こーゆーのって、きせいじじつって言うんだよね♪」
無邪気に告げるミッチの言葉は、恐ろしいまでの破壊力があった。
信 司:「ちょおま、意味わかって言ってるのか!?」
美智留:「もち、わかってるよー! セックスするって事でしょ? 違う?」
信 司:「ううっ……違わない……けどっ」
美智留:「ふふっ、合っててよかった。ちゅっ♪」
身体に心地よくのし掛かってくる、柔らかな身体の感触。
そして、何度も触れる唇の甘さ。
俺も健全な男だし、こんな直接的な迫られ方をしたら……っ!
甘い衝動が、俺の身体を駆け抜ける。
信 司:「んんっ……ちょ、ミッチ、ヤバイ。それ以上されたら……」
股間に血液が集中して、頭がぼぅっとしてくる。
全身を衝動が駆け巡り、このままだとミッチを押し倒してしまいそうだ。
美智留:「されたら、何? ちゅ、んっ、ちゅる……その気になってくれる? ちゅぱっ」
俺の状態を知ってか知らずか、ミッチは更に口づけしてくる。
ミッチが動く度、服越しにおっぱいがむにゅむにゅっと押し当たる。
ああもう、コイツばかりは……いつも俺を困らせてばかりで。
でも、言動に裏がなく、いつも真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる。
そのミッチが、俺に想いを伝えようとしてここまで──
信 司:「……ミッチ、本当に、俺がその気になってもいいのか?」
ミッチの背中に腕を回し、引き寄せながら告げる。
美智留:「ふわわっ!? し、しんじ……?」
少し余裕を見せていたミッチの顔が、みるみる真っ赤になってゆく。
信 司:「男は、スイッチが入ったら止まらないんだぞ? 衝動も、想いも……」
自覚していなかったが、俺はやっぱり……ミッチの事が好きなのだ。
性的衝動とは別の、胸がチリチリするようなむず痒い感覚が、それを知らせてくる。
美智留:「はううっ、しんじの目……さっきと違うぅ、ど、どうしよう、そんな目で見られたら、心臓が……っ」
俺が真剣に見つめると、ミッチは赤面したまま恥じらって目を逸らす。
あのミッチが、珍しく俺に翻弄されていた。
信 司:「ミッチの心臓がどうなるのか、知りたいぞ」
形勢逆転とばかりに、今度は俺の方からミッチの唇にキスを重ねた。
美智留:「くぅぅんっ、やっ……しんじぃ……っ」
紅潮して恥じらうミッチが新鮮で、なぜだか俺にとって特別な存在に思えてくる。
長い付き合いで気付かなかっただけで、ミッチは俺にとって特別な存在だったのか。
それとも、これから特別な存在になるのか……
キスを交わしながら、ミッチの制服に手を掛ける。
美智留:「ふむぅんっ、ちゅっ、やぁん……」
囁くようなか細い声で呻いたミッチだが、嫌がる様子はない。
美智留:「どうしよう、しんじ……急にものすごく恥ずかしくなってきた……」
信 司:「そっか……恥ずかしいんなら、既成事実は後回しでもいいぞ」
美智留:「んん……いつかは超えないといけないから……だから」
耳まで朱色に染め上げたミッチの、言外に置いた言葉を俺なりに酌み取る。
信 司:「だから、セックスしよう……ってことでいいのか?」
美智留:「わわっ、わかってて言うの、ナシだよ……」
目元まで朱に染め上げたミッチにキスをしながら、ゆっくりと制服の前をはだけてゆく。
女の子の服っていろいろと大変だな、などと妙なところに感心しながら、ひらひらとしたスカートの中へと手を滑り込ませた。
美智留:「ふわっ、ああんっ……」
野生児のミッチがこれほどまでに恥じらう姿を、俺は初めて見た。
スカートに隠れた太ももを遡ると、滑らかな肌が手の平に心地良く吸い付く。
さらに奥へと手を差し入れると、スカートとは質感の違う布地に指先が触れた。
美智留:「ひあっ!?」
ぼふん、と音がするんじゃないかと思うほどに、ミッチの顔が上気した。
美智留:「ううう……はずかしいよぉ……」
信 司:「……じゃあ、やめる?」
美智留:「だ、だいじょうぶ……だと思う……」
ミッチの返事を訊いてから、その柔らかな布の端を探して指先を這わせてゆく。
なだらかな膨らみが手の平に触れるのを感じながら、さらに奥へと手を差し入れると、ミッチの素肌が指先に触れた。
ミッチを包む小さな布と、腰の境界線にそっと指先を引っかける。
美智留:「ああん……ううっ……んんっ……」
ミッチは小刻みに震えていた。
ショーツのゴムを指先に引っかけて、ゆっくりと降ろそうとする。
信 司:「……これって、脱がせるのむずかしいな」
美智留:「あっ……ちょっとだけ……待って……」
<つづく>
信 司:「コホン。町役場に勤める、笹井信司だ」
信 司:「この度、島を盛り上げるプロジェクトの責任者になった」
信 司:「キミ達にとって俺は何でも屋みたいなものだし、マネージャーとでも呼んでくれ」
信 司:「ちなみに、俺達の具体的な目標は、8月末に行われる御神木祭でコンサートを開き、5000人を集めることだ」
沙 夜:「ごっ……!」
氷川さんはその数に絶句していた。
信 司:「今日はその未来に向かって進む、記念すべき第一歩目になる」
信 司:「一緒に頑張って、目標を達成しよう」
3 人:「はい」
信 司:「俺からは以上だ。質問は?」
広 美:「今日は何をするの?」
信 司:「まずは広美達の今の状態が知りたい」
信 司:「音楽に合わせて、ダンスを踊って欲しい」
広 美:「ダンス……」
広美の顔が僅かに陰ったような気がした。
広 美:「わかったわ」
だがそれもつかの間で、いつもと変わらぬ様子で頷く。
鞄からタブレットを取り出して、ダンスの動画を見せる。
俺が好きなローカルアイドルの曲の中でも、もっともメジャーなものだ。
啓 子:「この曲知ってるわ」
沙 夜:「……(こくん)」
広 美:「私もサビの部分を聞いたことがあるわ」
信 司:「じゃあまずは3人が知ってるサビのダンスを見せてもらおうか」
信 司:「10分は練習にあてる。俺が見るのはその後だ」
広美達は動画を食い入るように見て、まずはダンスを覚える。
だがいざ練習をするとなると、氷川さんは恥ずかしそうに固まっていた。
信 司:「氷川さん、どうだ?」
沙 夜:「……」
氷川さんは無言だった。
昨日の中二がかった威勢はどこへ行ってしまったのか。
啓 子:「難しいステップはあった?」
沙 夜:「……」
見かねた和久井さんが声を掛けても、電池が切れたロボットのように動かない。
啓 子:「こういうダンスは授業でやらないから、ちょっと恥ずかしかった?」
氷川さんは、小さく頭を横に振った。
沙 夜:「……じ」
じ……?
沙 夜:「10分……待っててください。トイレ、行ってきます……」
そう言うと、屋上から飛び出して、どこかへ行ってしまった。
信 司:「10分?」
啓 子:「恥ずかしさのあまり動けないから、気合いを入れに行ったのかもしれないわ」
信 司:「なるほど」
広 美:「そうだったのね。てっきり私と同じ理由で動けなかったのかと……」
信 司:「どういう意味だ?」
広 美:「な、なんでもない……」
広美は恥ずかしくて踊れないってワケじゃないだろうに。
氷川さんは宣言通り、10分後に戻ってきた。
沙 夜:「じゃーんっ☆ アイドルの氷川沙夜だよ。よろしくね!」
何事だ。というか誰だ。
氷川沙夜と名乗った気がするが、幻聴だろ?
気合いを入れに行ったってレベルじゃないぞ、これ。
慌てた。今までにない経験で、思ったことが口から滑り落ちる。
信 司:「双子と入れ替わったのか!?」
沙 夜:「違うよー。一応持ってきておいた衣装に着替えれば、レッスン出来るかなって思ったの」
沙 夜:「だから、トイレで着替えてきたんだ。更衣室ないし」
信 司:「それにしたって、ギャップが凄いどころじゃない。別人だろっ」
沙 夜:「それが衣装の力なんだよー。まあとにかくレッスン始めよっ。アニソン、スタート!」
信 司:「ええっ? ちょっ、まっ」
アニソンあったかな。
記憶を辿り、アニメのEDだった曲を流す。
すると、さっきまでは恥ずかしくて微動だにしなかった氷川さんが、ノリノリで踊り始めた。
すご……
広 美:「嘘……」
啓 子:「堂々としてるわね」
広 美:「衣装を替えただけで、こんなに違うなんて」
1曲が終わると、目の辺りでピースを作って決めポーズ。
沙 夜:「いっえーいっ☆」
圧倒された俺達は、すっかり観客の気分になって、氷川さんに惜しみない拍手を送った。
啓 子:「沙夜ちゃん、素敵だったわ」
広 美:「アイドルらしかったです」
沙 夜:「応援ありがとう!」
本物のアイドルみたいだ。
いや、彼女達は既にアイドルだが、初心者とは思えない立ち振る舞いだったというか。
沙 夜:「どうですか笹井さん。私の真の実力は!」
左手の平の指の部分だけ自分の顔の前にあてて、再び決めポーズ。
そしてドヤ顔。
沙 夜:「可愛すぎて、壁ドンしたくなったでしょう?」
なりません。
嘘です。ほんのちょっとなりました。
メガネの氷川さんも知的さの奥の可愛らしさを感じるし、衣装を着た氷川さんも目を引く可愛さだし。
言っておくが、肌の露出で胸の谷間まで見えているから目を引くわけじゃないぞ。その雰囲気に、だ。
信 司:「え、ええと……まず、その衣装はなんだ?」
俺はまず、マネージャーとして衣装について尋ねることにした。
沙 夜:「アニメ見て可愛いなって思ったから、自分で作ったの」
信 司:「自作なのか、それ!?」
沙 夜:「うんっ。その方が好きに作れるから」
信 司:「デキも、個人製作の域を超えてるぞ」
沙 夜:「ありがとう!」
ごく普通の感想を述べたが、氷川さんにとっては褒め言葉だったようだ。
自分で作った物だから、当然か。
信 司:「なんでその衣装だと性格が変わるんだ?」
沙 夜:「これを着ているからじゃないよ。着てる衣装によって変わるの。ちょっとコスプレに似てるかな」
信 司:「な、なるほど」
なるほどじゃないが、納得しなければ先に進めない。
スポットライトを当てると性格が変わる女優のようなものだと思えば、氷川さんの現象も理解できなくもない。
信 司:「まあ、本番でその衣装を着るわけじゃないし、少しずつ、せめて制服でも踊れるようになっていこうな」
沙 夜:「はーい。でも当分はこれでっ☆」
信 司:「練習着では無理だと思ったときだけにするように」
沙 夜:「えー」
信 司:「返事は?」
沙 夜:「はーい」
気のない返事だが、氷川さんを思えばこそだ。
信 司:「さて、これでレッスンに入れるな」
広 美:「そ、そうね」
信 司:「どうした広美、顔色が良くないような」
広 美:「そんなことないわ」
<つづく>
岩場の海岸に行くと、3人の人影が見えた。
文 原:「そうそう、そのまま肩紐を外してみようか」
柚子葉:「えっ。そんなことをしたら、見えちゃう……」
文 原:「大丈夫、ここにはオレ達しかいないんだし」
半 田:「そうそう。ちょっとくらい過激なものがないと、見る人は惹きつけられないよ」
柚子葉:「で、でも……」
文 原:「肩紐が外しにくいなら、手伝ってあげよう」
柚子葉:「ひっ! ち、近づかないでください」
文 原:「大丈夫、怖くないから」
半 田:「最高に綺麗な姿を撮ってあげるからね~」
柚子葉:「や、やめて…………触らないで……っ」
半 田:「ああ、綺麗な肌だね。もっと見せつけるようにしてみようか」
文 原:「素晴らしいよ、柚子葉ちゃん!」
柚子葉:「やめてっ! だ、誰かっ」
柚子葉:「いやあっ、誰か、助けてーーーっ!」
文 原:「あははは、ここは誰も来ない穴場なんだろう?」
半 田:「芸術の撮影にはもってこいだよねぇ」
信 司:「文原さん、ずっぱから離れてください!!」
柚子葉:「さ……笹井さん……」
道路から駆け下りて、ずっぱを抱きしめる。
柚子葉:「笹井さん、私……」
信 司:「大丈夫だったか? ずっぱ」
柚子葉:「はい、でも……でも……怖かったですっ」
零(こぼ)れんばかりに瞳を見開き、大粒の涙が落ちた。
信 司:「ゴメン……!」
俺は言葉より強い気持ちを示すために、ずっぱの体を強く抱きしめた。
柚子葉:「笹井さん……うっく、う……ふええっ」
泣き虫のずっぱは、俺にしがみついて、大声で泣き出した。
俺はそんなずっぱを、泣き止むまで抱き続けた。
ようやく少し落ち着き、俺は文原さん達を睨みつけた。
信 司:「文原さん、半田さん、なんてことをしてくれたんですか」
半 田:「何って、グラビアの撮影ですよ。あ~あ、綺麗な写真を撮ってあげようと思ったのにな」
文原さん達は、怒った様子も、罪の意識もなく、しらけた感じだった。
信 司:「無理に淫らなことをしようとしたのを見ましたよ」
文 原:「つまんねぇなぁ。いいだろ、せっかく島に来たんだから、楽しませてくれても」
これがこの人の素の喋り方か。
いくら顔が広くても、とても尊敬できないな。
半 田:「ちょっとしたお遊びですよ、笹井さん」
信 司:「あなた達の遊びに、メンバーを巻き込まないでください!」
文 原:「ヒーロー気取りか。マネージャーのくせに」
文 原:「はぁ~あ、興が削がれた。……帰って寝るか」
信 司:「むしろ、今すぐに本土へ帰ってもらっても構いませんが」
文 原:「はいはい、言われなくても明日の朝、発つつもりだよ」
文原さんと半田さんは、やや疲れた様子で岩場を去って行った。
桜庭さんが俺に連絡を入れてくれなければ今頃……と思うと、寒くなる。
ひとまず、ギリギリでずっぱを救い出せたが、ほんと……何かが起こる前で良かった。
<つづく>
教室の中には、俺たち以外誰もいなかった。
信 司:「どうしたんだ、急に?」
沙 夜:「……今、喋りそうです」
信 司:「へ?」
沙 夜:「私、今、先輩とのことを喋ってしまいそうです」
信 司:「……えーと」
突然何を言ってるんだろう?
沙 夜:「塞いでください」
信 司:「塞ぐって……」
沙 夜:「今言ったじゃないですか。私が喋りそうになったら、先輩が口を塞いでくれるって」
信 司:「言ったけど、でもそれは……」
沙 夜:「ん……」
目を閉じて、少し唇を突き出す沙夜。
あー……口を塞ぐって、そういうことか……
しかし、ここ教室なんだが……
沙 夜:「……ん……」
さらに唇を突き出して、キスを要求する沙夜。
まぁ……いいか。
それじゃ……
沙 夜:「っ……んぅ……」
沙夜の肩を抱き寄せ、彼女の唇にそっとキスをする。
沙 夜:「ん……っ……んく…っ……ふ…ぅ……ん……んぅ……」
無人の教室とはいえ、さすがにドキドキする……
いつ誰が入ってきてもおかしくはない状況だ。
沙 夜:「んく……ふ…ぅ……ん…ちゅ……ちゅ、むっ……ん…ぅ……ちゅふ……」
それでも……キスをやめられない……
沙 夜:「りゅっ……ちゅるぅっ……」
沙夜の舌が、俺の口腔内に入ってきた。
俺は、自分の舌を出してそれを受け止める。
沙 夜:「れろぉっ……りゅぷっ……りゅちゅっ、ちゅふ、ちゅむぅ……れるりゅ……くぷぅ……」
唾液を交換するかのように、舌と舌を絡め合う俺たち。
沙 夜:「れるぅっ、りゅぷっ、ちゅ……ちゅふぅ…ちゅむ……くりゅっ、れろぉ…りゅ、ぷ……くちゅふ……んんぅ……」
沙 夜:「ぷ、はぁ……っ……」
ようやく唇を離すと、俺の舌と沙夜の舌を、透明な唾液の糸が繋いだ。
危なかった……
これ以上続けていたら、俺も理性を失っていたかもしれない。
さすがに教室でこれ以上の行為はまずいだろう……
信 司:「……これで満足してくれたか?」
沙 夜:「……まだ、ダメです……」
えー……
沙 夜:「今、私は、先輩とのことを誰かに話したくて仕方ありません……」
沙 夜:「窓から大きな声で、叫んでしまうかも……」
信 司:「ちょっ……さすがにそれは……」
沙 夜:「やめさせたければ、私の口を塞いでください……しっかりと……フタをするように……」
そんなことを言いながら、沙夜は少しずつ床にしゃがみ込んでいく。
信 司:「お、おい……さっちん?」
沙 夜:「んふぅ……はぁっ……」
床にペタリと座り込むと、沙夜は俺のズボンのベルトに手をかけた。
信 司:「え……」
カチャカチャと音を立ててベルトをはずしていく。
信 司:「ちょっ……ま、待った! ダメだよ、さっちん!」
沙 夜:「………………」
トロンとした目の沙夜は、俺の言葉を無視して、作業を続ける。
そのままズボンのホックはずし、さらにチャックを下ろす。
信 司:「さ、さっちん! 沙夜! おいっ!」
沙 夜:「大きな声を出すと、誰か来ちゃいますよ?」
信 司:「ぐっ……」
沙 夜:「んっ……しょ……!」
ついにズボンは下着ごと引きずり下ろされ、俺のペ○スが露わにされた。
沙 夜:「あっ……すご、い……もう硬くなり始めてる……♪」
信 司:「さ、沙夜……いくらなんでもそれは……ここ、教室だぞ……!?」
沙夜を怒るにも、大きな声は出せない。
信 司:「おい、沙夜……!」
沙 夜:「大丈夫です」
信 司:「大丈夫って……」
沙 夜:「ちゃんとやり方は調べてありますから」
大丈夫ってそっちかよ!
沙 夜:「は、ぁっ……ん……」
沙夜の手が、そっとペ○スの根本を掴む。
沙 夜:「あ……熱い……先輩の……すごく、熱いです……」
沙 夜:「はぁっ……これを……今から私が……ゴクッ……」
さっちんはおずおずと舌を出した。
そして――
沙 夜:「ん……れろぉ……ぺろっ……れるぅ……」
信 司:「くうっ……!?」
<つづく>